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相続法解説(民法第5編) 第8章 配偶者の居住の権利 第1節 配偶者居住権

第1028条【配偶者居住権】

1項 被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住してい

   た場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の

   全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が

   相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。

 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

2項 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅し

   ない。

3項 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

 

解説

1項 「配偶者居住権」とは、被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合、引き続きその建物に一生涯無償で住むことができる権利です。一般的に遺産価額の割合において不動産の価額が占める割合が高いことが多いです。例えば高齢夫婦の旦那さんが亡くなった場合、その奥さんは長年旦那さんと暮らしてきた住み慣れた今の家に住み続けたいと思うでしょう。しかし遺産分割で、高額である不動産を取得してしまうと現金も取得することは難しくなってしまいます。そのような場合に不動産を「所有権」ではなく「居住権」という形で取得することで柔軟な遺産分割がし易いようになりました。

配偶者居住権を取得するためには、次のいずれかの方法でなくてはなりません。

、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判

、遺言者の遺言による遺贈

ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合、配偶者居住権を取得することはできません。

2項 居住建物が配偶者の所有物となった場合であっても、他の者との共有であるときは、配偶者居住権は、消滅しません。

3項 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、配偶者に対し、配偶者居住権を遺贈したときは、当該被相続人は、その遺贈について特別受益の持ち戻しの免除をしたと推定します。

 

 

 

第1029条【審判による配偶者居住権の取得】

遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。

 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。

 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を

  考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

 

解説

遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次の一、二場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができます。

一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。

 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合で、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき。

 

 

 

第1030条【配偶者居住権の存続期間】

配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

 

解説

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間です。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めに従います。

 

 

 

第1031条【配偶者居住権の登記等】

1項 居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。以下この節において同じ。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負う。

2項 第605条の規定は配偶者居住権について、第605条の4の規定は配偶者居住権の設定の登記を備えた場合について準用する。

 

解説

1項 配偶者居住権が設定された建物の所有者は、その建物に配偶者居住権設定の登記を行う義務があります。

2項 配偶者居住権には第605条の規定を適用し、配偶者居住権の設定の登記を備えた場合605条の4の規定を適用します。

配偶者居住権設定の登記をしたときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。その場合に、その不動産の占有を第三者が妨害しているときは、その第三者に対する妨害の停止の請求ができ、その不動産を第三者が占有しているときは、その第三者に対する返還の請求をすることができます。

 

参考条文

第605条【不動産賃貸借の対抗力】

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

 

第605条の4【不動産の賃借人による妨害の停止の請求等】

不動産の賃借人は、第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。

一 その不動産の占有を第三者が妨害しているとき その第三者に対する妨害の停止の請求

 その不動産を第三者が占有しているとき その第三者に対する返還の請求

 

 

 

第1032条【配偶者による使用及び収益】

1項 配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければならない。ただし、従前居住

   の用に供していなかった部分について、これを居住の用に供することを妨げない。

2項 配偶者居住権は、譲渡することができない。

3項 配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益

   をさせることができない。

4項 配偶者が第一項又は前項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間

   内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができる。

 

解説

1項 配偶者居住権を取得した配偶者は、他人の居住建物に住まわせてもらってるのだから、大切に注意を払ったうえ今まで通りに居住建物の使用及び収益をしなければなりません。ただし、今までは店舗として利用するなど、居住用にしていなかった部分を居有用に使用してもかまいません。

2項 配偶者居住権は、被相続人の配偶者のみに認められる権利ですので譲渡することはできません。

3項 配偶者は居住の権利を有しているだけで所有者ではありません。ですから、居住建物の所有者の承諾を得ないで、居住建物の改築若しくは増築をしたり、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができません。

4項 配偶者が第1項又は第3項の規定に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間   内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。

 

 

 

第1033条【居住建物の修繕等】

1項 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができる。

2項 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができる。

3項 居住建物が修繕を要するとき(第一項の規定により配偶者が自らその修繕をするときを除く。)、又は居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、この限りでない。

 

解説

1項 配偶者は、居住建物の使用及び収益に必要な修繕をすることができます。「修繕」とは経年やその他の原因で劣化や破損、不具合などが生じている建物を支障なく利用できる状態まで直す工事のことです。この場合の費用は、通常の必要費に該当するため原則として配偶者が負担します。

2項 居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。この場合の費用も、通常の必要費に該当するため原則として配偶者が負担します。

3項 居住建物の修繕が必要なのに、配偶者自ら修繕できないような場合、又は居住建物について権利を主張する者がいるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、なるべく早くそのことを報告しなければなりません。ただし、居住建物の所有者が既にそのことを知っているときは、報告の必要はありません。

 

 

 

第1034条【居住建物の費用の負担】

1項 配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担する。

2項 第583条第2項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。

 

解説

1項 通常の必要費とは、通常の使用によって生じる劣化や破損、不具合などを支障なく利用できる状態まで直すための費用です。この通常の必要費は、建物の所有者ではなく配偶者が負担します。

2項 通常の必要費以外の費用については第583条第2項のルールを適用します。通常の必要費以外の費用には、特別の必要費、有益費などがあります。特別の必要費とは災害等によって生じた修繕費のことで、有益費とは建物を改良し、価値を増加させるための費用のことです。

 

参考条文

第583条【買戻しの実行】

1項 売主は、第580条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。

2項 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第196条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

 

第196条【占有者による費用の償還請求】

1項 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。

2項 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

 

 

 

第1035条【居住建物の返還等】

1項 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければならない。ただし、配偶者が居住建物について共有持分

   を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができない。

2項 第599条第1項及び第2項並びに第621条の規定は、前項本文の規定により配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物又は

   相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合について準用する。

 

解説

1項 配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりません。配偶者居住権は原則として終身の間ですが、第1030条但し書きに規定される別段の定めや、第1032条第4項の規定によって存命中でも配偶者居住権が消滅する場合があります。そのようなとき、配偶者は居住建物の返還をしなければなりません。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、その持分による使用収益する権利がありますので居住建物の返還を求めることはできません。

2項 配偶者居住権の消滅により居住建物の返還をしなければならない場合に、配偶者が相続の開始後に附属させた物があるとき、又は相続の開始後に生じた損傷があるときは、599条第1項及び第2項並びに第621条の規定を適用します。「借主」「賃借人」を「配偶者」と読み替えると理解しやすいと思います。

 

参考条文

第599条【借主による収去等】

1項 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。

2項 借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。

 

第621条【賃借人の原状回復義務】

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

 

 

第1036条【使用貸借及び賃貸借の規定の準用】

第597条第1項及び第3項、第600条、第613条並びに第616条の2の規定は、配偶者居住権について準用する。

 

解説

配偶者居住権には第597条第1項及び第3項、第600条、第613条並びに第616条の2の規定が適用されます。以下参考条文中の「使用貸借」を「配偶者居住権」、「賃借人」を「配偶者」と読み替えると理解しやすいと思います。

 

参考条文

第597条【期間満了等による使用貸借の終了】

1項 当事者が使用貸借の期間を定めたときは、使用貸借は、その期間が満了することによって終了する。

3項 使用貸借は、借主の死亡によって終了する。

 

第600条【損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限】

1項 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。

2項 前項の損害賠償の請求権については、貸主が返還を受けた時から1年を経過するまでの間は、時効は、完成しない。

 

第613条【転貸の効果】

1項 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。

2項 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。

3項 賃借人が適法に賃借物を転貸した場合には、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは、この限りでない。

 

第616条の2【賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了】

賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 

 

 

相続法解説(民法第5編) 第8章 配偶者の居住の権利 第2節 配偶者短期居住権(第1037条~第1041条)

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