相続法解説(民法第5編) 第2章 相続人
第886条【相続に関する胎児の権利能力】
1項 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2項 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
解説
1項 まだ生まれてきていないお腹の中の赤ちゃんにも相続人としての権利が認められます。(原則、胎児には権利能力が無いとされていますがその特例のひとつです)
例えば、夫、妊娠中の妻、3歳の息子の家族があったとして、夫が亡くなった場合に相続権を有するのは妻(法定相続分2分の1)と3歳の息子(法定相続分4分の1)と妻のお腹の中の胎児(法定相続分4分の1)となります。
2項 死産だった場合は1項の規定は適用されず、上記の例でいうと相続権を有するのは妻(法定相続分2分の1)と3歳の息子(法定相続分2分の1)となります。
第887条【子及びその代襲者等の相続権】
1項 被相続人の子は、相続人となる。
2項 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったと
きは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3項 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を
失った場合について準用する。
解説
1項 子とは実子、養子、嫡出子、非嫡出子は問いません。すべて子となります。
2項 本来は相続人となるはずだった人が、亡くなっている場合、欠格事由(第891条)に該当する場合、排除された場合により相続権を 失ったときは、その子供が本来相続人となるはずだった親に代わって相続人となる。これを代襲といいます。
代襲相続が認められるのは上記の「死亡」「欠格」「排除」の3つだけで、「相続放棄」は代襲原因とはなりません。
代襲は被相続人の子もしくは兄弟姉妹が、本来は相続人となるはずだった場合に適用されます。この場合に養子の子は、養子縁組後に生まれた子であれば代襲相続人となりますが養子縁組前に生まれていた子は代襲相続人にはなりません。
3項 代襲者を代襲する「再代襲」の規定です。本来相続人となるはずだった親に代わって相続人となるべき子も死亡していた場合、更にその子(本来、相続人となるべきだった者の孫)が相続人となります。
第888条 (昭和37年の改正により、本条の規定が第887条の中に取り込まれたため削除)
第889条【直系尊属及び兄弟姉妹の相続権】
1項 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2項 第887条第二項の規定は、前項第二号の場合について準用する。
解説
1項 亡くなった人(被相続人)に子も子の代襲相続人となるべき孫やさらにその下の代の血族もいない場合は次の順位に従って相続人になります。
一 被相続人の父母(実親、養親は問いませんが義理の父母は含みません)、父母がいない場合は祖父母~さらにその上の代。
二 被相続人の兄弟姉妹
2項 代襲相続は兄弟姉妹が相続人となる場合にも適用されますが、再代襲は認められておらず甥、姪までとなります。
第890条【配偶者の相続権】
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
解説
亡くなった方の配偶者は、常に相続人となります。
配偶者とは法律上の婚姻関係にある者で、内縁の配偶者は相続権を持ちません。
配偶者以外に子、親、兄弟姉妹などで相続権を持つ人がいる場合はその人(たち)と配偶者は同順位で一緒に相続人となります。
第891条【相続人の欠格事由】
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられ
た者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害
者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
解説
次の一~五に該当する者は、相続人となることができない。
※殺人、脅迫、詐欺、私文書偽造などの罪を犯してまで自己の利益を求め、相続の安全性をおびやかす者から相続権を剥奪するためのルールです。
一 意図的に相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡させ、または死亡させようとして刑に処せられた者
二 被相続人が殺害されたことを知っていたのに、これを告発、告訴しなかった者。ただし、その者が是非の判断のできないものであっ
た場合や、殺害者が自己の配偶者、直系血族であった場合にはこの限りでない。
三 騙したり脅すことによって、被相続人が遺言を書くこと、遺言を撤回すること、遺言を取り消すこと、遺言を変更することを妨げ
た者。
四 騙したり脅すことによって、被相続人に遺言を書かせたり、遺言を撤回させたり、遺言を取り消させたり、遺言を変更させた者。
五 被相続人の遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した者
第892条【推定相続人の廃除】
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に
請求することができる。
解説
遺留分を有する推定相続人とは、もし仮に今相続が発生した場合に相続人となるべき者で、被相続人の兄弟姉妹(は遺留分を有しないので)以外の者。主には配偶者、子、又は親になります。
上記の者が被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えたり、その他の著しい非行があった場合には被相続人の意思で、その者の相続権を剥奪すること(廃除)を家庭裁判所に請求することができます。(実際に廃除が認められることは少ないようです。)
廃除された者は遺留分をも含め相続権を剥奪されます。
第893条【遺言による推定相続人の廃除】
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
解説
892条は自身の生前の、推定相続人の廃除の意思表示に関するルールでしたが893条は遺言による廃除の意思表示に関するルールです。
遺言執行者とは簡単にいうと遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示していた場合、遺言執行者は相続発生後すぐに、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。
家庭裁判所によって廃除が決定されると、その決定の時でなく、被相続人が亡くなった時点で廃除されていたものして扱われます。
第894条【推定相続人の廃除の取消し】
1項 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2項 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
解説
1項 廃除した相続人との関係修復などにより、家庭裁判所への廃除の取消し請求はいつでもできます。
2項 廃除の取消しは遺言によってもすることができます。遺言執行者は相続発生後すぐに、その推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求しなければなりません。
第895条【推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理】
1項 推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関
係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったとき
も、同様とする。
2項 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
解説
1項 推定相続人が廃除されるのか、されないのかが決まらないうちに被相続人が亡くなると、相続人が確定されないまま相続が発生し混乱が生じる恐れがあります。
そのような事態を避けるために親族、利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所は遺産の持ち出しを禁じたり遺産の管理人を選任したりすることができます。
廃除や廃除の取消しが遺言書によってされた場合も同様です。
2項 1項の規定で選任された遺産の管理人は民法27条から29条に規定される権限や義務を持ちます。