相続法解説(民法第5編) 第3章 相続の効力 第2節 相続分
第900条【法定相続分】
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉
妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。
解説
法定相続分についてのルールです。
一 子と配偶者が相続人となる場合の法定相続分は、子が2分の1、配偶者も2分の1となります。
二 配偶者と直系尊属が相続人となる場合の法定相続分は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1となります。
三 配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。
四 子、直系尊属、兄弟姉妹が複数人いる場合の法定相続分は、その人数で等分したものとなります。
一のケースで子が複数人いる場合は、2分の1を更に子の人数で等分します。
二のケースで仮に、相続権を持つ直系尊属が父母であれば3分の1を父と母で更に2分の1ずつし、父、母ともに6分の1となります。
三のケースで兄弟姉妹が複数人いる場合は、4分の1を更に兄弟姉妹の人数で等分します。ただし、異母兄弟や異父兄弟である半血兄弟の法定相続分は全血兄弟の2分の1となります。
この半血、全血で区別されるルールが用いられるのは、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人になる場合(三のケースや法定相続人が兄弟姉妹だけのケース)のみで、被相続人の子が法定相続人になる場合(一のケースや法定相続人が子だけのケース)の場合は半血、全血による法定相続分の差はありません。
第901条【代襲相続人の相続分】
1項 第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。
ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を
定める。
2項 前項の規定は、第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
解説
1項 本来は相続人になるはずだった者が、死亡、欠格、廃除によって相続権を失い、その子が代わりに相続人となる(代襲相続)場合の法定相続分は、本来の相続人である親の法定相続分と同じとします。
ただし、代襲相続する子が複数人いる場合は、子の人数で等分します。
2項 被相続人の兄弟姉妹が法定相続人であった場合も、本来相続人となるはずだった兄弟姉妹の子(被相続人からすると甥、姪)が代襲相続するときは1項と同様の相続分とします。
第902条【遺言による相続分の指定】
1項 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することが
できる。
2項 被相続人が、共同相続人中の1人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相
続分は、前2条の規定により定める。
解説
1項 被相続人は法定相続分の規定に縛られることなく、遺言で自由に各相続人の相続分を指定することができます。また、各相続人の相続分を第三者に指定させることもできます。
2項 被相続人または託された第三者が、複数人いる相続人のうちの一部の人だけの相続分を指定した場合、相続分を指定されなかった相続人の相続分は法定相続分のルールに従い定めます。
第902条の2【相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使】
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
解説
法定相続分とは異なった割合で相続分が指定された場合でも、被相続人が亡くなった時に有していた債務の債権者は、指定された相続分では無く、法定相続分に応じた権利の行使をすることができます。
ただし債権者側が、法定相続分では無く、指定された相続分に応じることもできます。その場合は指定された相続分に応じた権利の行使をすることになります。
第903条【特別受益者の相続分】
1項 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がある
ときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から
第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2項 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができ
ない。
3項 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4項 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は
贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
解説
特別受益者とは、被相続人から「遺贈」「婚姻・養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」(特別受益)を受けた相続人のことです。特別受益者である相続人とそうでない相続人との間で、より公平な相続を行うためのルールです。
1項 特別受益者がいた場合の相続分の求め方です。
特別受益者がいた場合、その特別受益の価額を被相続人が亡くなった時に有していた財産に加算します。これを「持ち戻し」といいます。この加算した合計を相続財産とみなし、法定相続分に応じて分割します。この時、特別受益者は自身の法定相続分の価額から特別受益の価額を引いたものが相続分となります。
2項 特別受益の価額が、1項で算出した相続分と同じかそれより大きい場合、相続分はありません。本来の相続分と同等かそれ以上の利益を特別受益として得ているからです。
3項 1、2項の例外として、被相続人が特別受益の持ち戻しを免除させる意思表示や、相続分以上の特別受益を得ている相続人にももっと遺産を与えたいなどの意思表示があればそれに従います。
4項 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が、もう一方に対して居住用建物やその敷地(居住用不動産)を遺贈又は贈与した場合、被相続人がその居住用不動産の持ち戻しを免除させる意思表示をしたものと推定します。
第904条【特別受益者の相続分】
前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
解説
特別受益の価額を算出するときのルールです。贈与を受けた人の行為によってその贈与された物の価値が無くなってしまったり、価値が増減した場合でもあくまで贈与を受けた時点での価値をもとに算出します。
第904条の2【寄与分】
1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産
の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の
協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与
分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、
寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3項 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4項 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。
解説
生前の被相続人の財産の維持や増加に特別の貢献(寄与)をした相続人がいた場合には、その相続人には貢献に応じて相続分を多くしようというルールです。
貢献を受けなければ財産は本来減少していたはずであろう分や貢献によって財産が増加したであろう分を「寄与分」といいます。
1項 被相続人の仕事を(無償や著しく低い賃金で)手伝ったり、財産を給付したり、(無償や著しく低い賃金で)療養看護に努める等で被相続人の財産の維持や増加に寄与した相続人がいるときは、その寄与分を共同相続人の協議で定め、被相続人が亡くなった時に有していた財産からその寄与分を引きます。その寄与分を差し引いたものを相続財産とみなします。
寄与した相続人の法定相続分に寄与分を足したものをこの人の相続分とします。
2項 共同相続人の協議で寄与分が定まらない場合や、協議をすることができない場合は、寄与した人の請求によって家庭裁判所が一切の事情を考慮したうえで寄与分を定めます。
3項 寄与分は被相続人が亡くなった時に有していた財産から遺贈の価額を引いた残額を超えることはできません。例えどんなに多大な寄与をしていたとしても、最終的に残された財産を超えてまで寄与を認めることはできません。
4項 2項の請求は、家庭裁判所への遺産分割の請求があった場合か、相続の開始後に認知された者の価額の支払請求があった場合にすることができる。
第905条【相続分の取戻権】
1項 共同相続人の1人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、
その相続分を譲り受けることができる。
2項 前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない。
解説
相続分は他の共同相続人や他の第三者に譲渡することができます。
第三者に譲渡した場合、この第三者が遺産分割協議に参加します。そうなると話し合いがまとまりにくく混乱が生じる恐れがあります。そのような事態を避けるためのルールです。
ちなみに相続分を全て譲渡した相続人は遺産分割協議には参加できません。逆に言うと遺産分割協議に参加したくなければ相続分を譲渡してしまうというのは有効な手段です。
1項 共同相続人の1人が遺産の分割前に自身の相続分を第三者に譲渡した場合、他の共同相続人は、第三者が譲受する為にかかった価額や費用を支払うことで、相続分を第三者から買い戻すことができます。
この譲渡された相続分を買い戻す権利(相続分の取戻権)は、共同相続人側からの一方的な権利行使のみで行うことができ、第三者の了承をとる必要はありません。
2項 相続分の取戻権は、相続分の譲渡があってから一か月以内に行使しなければいけません。