相続法解説(民法第5編) 第4章 相続の承認及び放棄 第1節 総則
第915条【相続の承認又は放棄をすべき期間】
1項 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄
をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2項 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
解説
1項 被相続人が死亡し、自分がその相続人となったことを知った時から、3か月以内に「単純承認」もしくは「限定承認」又は「相続放棄」のいずれかを選択しなければなりません。この3か月の期間を「熟慮期間」といいます。
「単純承認」とは、預貯金や現金、不動産などのプラスの財産も、借金などのマイナスの財産も全て相続することです。
「限定承認」とは、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産も相続することです。
「相続放棄」とは、プラスの財産もマイナスの財産も一切相続しないことです。相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになります。
ただし、例えば、被相続人と疎遠であったり、コロナ禍や自然災害の影響で思うように相続財産の調査が進まない等の場合に、3か月という期間(熟慮期間)を伸長してもらえることもあります。
2項 相続財産の内容が把握できなければ承認や放棄の判断も出来ませんので、その前に
プラスの財産がどれほどあるか、マイナスの財産がどれほどあるか等の調査をすることができます。
第916条【相続の承認又は放棄をすべき期間】
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
解説
被相続人Aが亡くなり、その相続人Bが承認や放棄の選択をまだしていないうちに、この相続人Bも亡くなってしまった。この時、相続人Bの更なる相続人Cは、A→Bの相続と、B→Cの相続の両方について承認又は放棄の選択をしなければなりません。
この場合の熟慮期間は、A→Bの相続についても、B→Cの相続についても、Bの死亡によってCが相続人であることを知った時が起算点となります。
第917条【相続の承認又は放棄をすべき期間】
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
解説
未成年者や成年後見を受けている人は法律上、自身での承認や放棄が認められません。
なので、それらの人に相続があった場合は、それらの人の法定代理人がそれらの人に相続があったことを知った時から熟慮期間が始まります。
第918条【相続財産の管理】
1項 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄を
したときは、この限りでない。
2項 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3項 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
解説
相続人が承認又は放棄をしてから相続財産がだれに属するかが決まります。従ってそれま
では相続財産を自身の財産と分けて管理する必要があります。その管理についてのルールです。
1項 相続人は、相続が開始してから相続の承認又は放棄をするまでの間は、相続財産を自分の財産と同じような注意義務をもって管理しなければなりません。
「ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。」とある通り、単純承認をした場合はこの注意義務は無くなります。
しかし、限定承認をした場合は、第926条第1項 限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
相続放棄をした場合は、第940条第1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。とあるように注意義務が残ります。
2項 相続人の相続財産の管理が不十分であったり、相続人がいない場合などに、利害関係人や検察官の請求によって家庭裁判所は相続財産の保存に必要な処分を命じることができます。代表例が相続財産管理人の選任です。
3項 相続財産管理人は第27条から第29条に規定されている不在者財産管理人と同様の権利義務を有します。
第919条【相続の承認及び放棄の撤回及び取消し】
1項 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2項 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3項 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時か
ら10年を経過したときも、同様とする。
4項 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
解説
1項 一度、相続の承認または放棄をした場合は、たとえ熟慮期間内でも撤回することはできません。
2項 相続の承認または放棄をしたときでも、民法総則編及び親族編に規定された取消
原因があるときには、その承認または放棄を取り消すことができます。
取消原因の例として、未成年者が法定代理人の同意を得ないでした承認または放棄。成年被後見人のした承認または放棄。錯誤や詐欺、脅迫による承認または放棄。などです。
3項 2項に規定される取消権は、追認することができる時から6か月間行使しない場合は時効によって消滅します。承認または放棄の時から10年が経過したときも消滅します。
4項 2項の規定によって限定承認または相続の放棄の取消しをするときは、家庭裁判所への申述によってしなければなりません。