相続法解説(民法第5編) 第7章 遺言 第2節 遺言の方式 第1款 普通の方式
第967条【普通の方式による遺言の種類】
遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
解説
遺言は、普通の方式である自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、普通の方式によることが困難で特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
第968条【自筆証書遺言】
1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2項 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権
利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺
言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければなら
ない。
3項 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれ
に署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
解説
1項 自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません。
2項 財産目録を添付する場合、その財産目録は自筆する必要はありません。例えば、ワープロで作成し印刷したもの、預金通帳をコピーしたものなどです。その場合、遺言者は目録ごと、ページごと全てに署名し、印を押す必要があります。
3項 自筆証書遺言の遺言内容を変更した場合、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記(余白などの空いてる場所に、例えば、3行目、5文字削除、8文字加入など)して、付記した箇所に署名をし、実際に変更した箇所(例えば、二重線で文字を消した箇所、文字を加入した箇所など)には印を押さなければ、変更の効力を持ちません。このルールに従わないと変更したことが認められないのであって、遺言自体が無効になるわけではありません。
第969条【公正証書遺言】
公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人2人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない
場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
解説
公正証書遺言を作成する場合は次の一から五までのルールに従わなくてはいけません。
一 2人以上の証人が立ち会う必要があります。公証人はこの証人には含まれません。
二 遺言者が遺言内容を口頭で公証人に伝えます。
三 公証人が遺言者から伝えられた遺言内容を筆記し、その内容を遺言者と証人に読み聞かせるか、閲覧してもらいます。
四 遺言者と証人が、公証人の筆記が遺言内容通り正確なことを承認し、各自がこれに署名し押印します。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名の代わりにすることができます。
五 公証人が、一から四のルールに従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押します。
第969条の2【公正証書遺言の方式の特則】
1項 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申
述し、又は自書して、前条第2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については、同号中
「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2項 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第3号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により
遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3項 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
解説
口や耳の不自由な方が公正証書遺言をする場合のルールです。
1項 口の不自由な方が公正証書遺言をする場合は、遺言者が口頭にかえて、手話をもって通訳人を介して、又は自書することによって遺言内容を公証人に伝えることができます。
2項 遺言者又は証人が耳が不自由な場合、公証人が遺言者から伝えられた遺言内容を筆記し、その内容を遺言者と証人に通訳人の手話による通訳をもって伝えることができます。
3項 1項や2項の方式によって公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければなりません。
第970条【秘密証書遺言】
1項 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2項 第968条第3項【自筆証書遺言の加除訂正】の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
解説
1項 秘密証書遺言をする場合は次の一から四のルールに従わなくてはなりません。
一 遺言者が、遺言書に署名し、押印します。遺言内容は自筆以外でも有効で、ワープロやパソコンで作成したもの、他人が代筆したものでも構いません。
二 遺言者が遺言書を封筒に入れ、遺言書に押したものと同じ印で封印します。
三 遺言者が、公証人と2人以上の証人の前に封筒を提出し、自身の遺言書であること、自身の住所、氏名を申述します。
四 公証人が、遺言者が遺言書を提出した日付、遺言者の住所、氏名を記載し、遺言者、証人とともに署名し、印を押します。
秘密証書遺言は遺言内容を誰にも知られずに、遺言書の存在を公証役場に証明してもらう方式の遺言です。遺言書は公証役場ではなく、遺言者自身が保管します。また家庭裁判所の検認が必要になります。
2項 秘密証書遺言の遺言内容を変更した場合、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記(余白などの空いてる場所に、例えば、3行目、5文字削除、8文字加入など)して、付記した箇所に署名をし、実際に変更した箇所(例えば、二重線で文字を消した箇所、文字を加入した箇所など)には印を押さなければ、変更の効力を持ちません。このルールに従わないと変更したことが認められないのであって、遺言自体が無効になるわけではありません。
第971条【方式に欠ける秘密証書遺言の効力】
秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第968条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
解説
秘密証書遺言は第970条のルールに従っていないものは無効とされますが、そのような場合でも封入された証書が自筆証書遺言の要件(第968条)を満たしていれば、自筆証書遺言としての効力は認められます。
第972条【秘密証書遺言の方式の特則】
1項 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並
びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第970条第1項第3号の申述に代えなければなら
ない。
2項 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3項 第1項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第970条第1項第4号に規定する申述
の記載に代えなければならない。
解説
1項 口の不自由な方が秘密証書遺言をする場合は、遺言者は、公証人及び証人の前で、その遺言書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を手話などによる通訳人の通訳により申述するか、又は封紙に自書することによって、第970条第1項第3号の申述の代わりにしなければなりません。
2項 1項の場合で、遺言書が自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を、手話などによる通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければなりません。
3項 1項の場合で、遺言書が自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を、封紙に自書することによって第970条第1項第3号の申述の代わりにしたときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第970条第1項第4号に規定する申述の記載に代えなければなりません。
第973条【成年被後見人の遺言】
1項 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。
2項 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言
書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載
をし、署名し、印を押さなければならない。
解説
1項 成年被後見人は事理弁識能力(自身の言動の内容やその結果どうなるかを理解できる能力)を欠くと判断された者です。なので原則として成年被後見人は有効な遺言をすることは出来ません。ですが、一時的に事理弁識能力を回復した時には医師2人以上の立会いのもとに有効な遺言をすることが出来ます。
2項 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言(公正証書遺言、自筆証書遺言)をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければなりません。秘密証書遺言の場合は、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければなりません。
第974条【証人及び立会人の欠格事由】
次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
解説
公正証書遺言、秘密証書遺言をする場合、証人、立会人が必要です。次の一から三の者は証人、立会人となることはできません。
一 未成年者。未成年者は法定代理人の同意を得ても証人、立会人となることはできません。
二 推定相続人(遺言作成時に当然に被相続人を相続する地位にある者)及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
もし上記欠格事由に該当する者が証人、立会人になっていた場合、その遺言は無効になります。
第975条【共同遺言の禁止】
遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。
解説
複数の遺言者が同一の証書で遺言をすると、法律関係が複雑になる、自由な撤回がしにくいなどの理由から禁止されています。