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相続法解説(民法第5編) 第3章 相続の効力 第3節 遺産の分割

 

906条【遺産の分割の基準】

遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

 

解説

遺産の分割は、相続財産がどのようなものがどれくらいあるか、それをどのような相続人達で分割するのか。様々な事情を考慮して行う。

本来の遺産分割は法定相続分ではなく、この基準にしたがって行うことが望ましいのかも知れません。

 

 

 

 

906条の2【遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲】

1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が

   遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の

   同意を得ることを要しない。

 

解説

遺産を複数人で共同相続した場合、その遺産は当然にまずは相続人全員の共有財産となりので、相続人は遺産分割前でもその共有持分を処分することができます。

共同相続人のうち1人が共有持ち分を処分し利益を得たうえで、処分によって減少してしまった相続財産を共同相続人間で平等に分けるとなると不公平が生じます。

そのような場合に平等に分割するため創設されたルールです。

1項 遺産分割前に相続財産の一部が処分された場合でも、共同相続人全員の同意があれば、その処分された財産(処分財産)もまだ相続財産に残っているものとみなして分割することができます。

実際にはもう残ってない処分財産を、その処分をした相続人が相続したことにすることで公平を保ちます。

2項 共同相続人の一人又は数人が遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合、その処分をした共同相続人の同意を得る必要はありません。(1項に全員の同意とありますが、処分をした者の同意は必要ないということです。)

 

 

 

 

907条【遺産の分割の協議又は審判等】

1項 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をする

   ことができる。

2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部

   又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害する

   おそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

3項 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ず

   ることができる。

 

解説

1項 被相続人は遺言によって、最大で5年の間は遺産分割を禁止することができます。(民法908条)

そのような場合を除き、共同相続人はいつでも遺産の全部又は一部の分割について話し合い(遺産分割協議)をすることができます。

一部の分割とは、例えばとりあえず分割が用意な現金や預貯金だけは分け合っておいて、評価のし難い不動産等は後からゆっくり話し合おうというような場合です。

遺産分割協議は原則として共同相続人全員が参加しなければなりません。

2項 遺産分割協議で話がまとまらない場合、遺産分割協議をすることができない場合は、

遺産の全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができます。

3項 遺産の全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求した場合でも、例えば、相続人が確定していない、相続財産が確定していない等の特別の自由があるときは家庭裁判所は期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁止することができます。

 

 

 

 

908条【遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止】

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

 

解説

被相続人は遺言で、遺産の分割の方法を定めたり、定めることを第三者に託すことができます。また、5年を超えない期間で遺産の分割を禁止することができます。

例えば相続人の中に未成年がいるので成人してから遺産分割協議をする方が良いだろうという場合などに、期間を定めて遺産の分割を禁止することがあります。

 

 

 

 

909条【遺産の分割の効力】

遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

 

解説

遺産分割が完了した時点ではなく、相続開始の時点で分割されていたものして扱います。

ただしそのことにより第三者の権利を侵害するような場合は認められません。

第三者の権利を侵害するような場合とは、仮に被相続人Aが死亡し、Aの子BCの二人が相続人だとします。Aの所有していた土地は一時的にはBCの共有となります。その間にBが自身の持ち分をDに譲渡してしまったとします。しかし遺産分割協議の結果その土地はCが単独で相続することになりました。すると相続開始の時点でその土地はCが単独で相続したことになるのでBDの譲渡が認められなくなってしまいDが損害を被ってしまうようなケースです。

 

 

 

 

909条の2【遺産の分割前における預貯金債権の行使】

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 

解説

各共同相続人は、遺産に預貯金債権があった場合、相続開始の時の債権額の3分の1に自身の法定相続分を乗じた額までは、他の共同相続人の同意を得ないで払い戻しを受けることができます。ただし、法務省令で各金融機関ごとに払い戻しを受けることができる上限は150万円と定められています。

預貯金債権の払い戻しがあった場合、払い戻しを受けた相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとして取扱われることになります。

 

 

 

 

910条【相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権】

相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

 

解説

遺産分割が終了後に、認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求した場合のルールです。本来は、認知による相続人も含めた相続人全員で遺産分割協議をしなければ無効となり、やり直さなければいけないのですが、それ以外の相続人間で遺産分割が終了している場合は、認知による相続人は相続分相当の金銭を請求できる権利を持つまでとしました。

 

 

 

 

911条【共同相続人間の担保責任】

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。

 

解説

売買契約の場合、売主の担保責任というものがあります。売主の担保責任とは、売った物の品質が悪かった、数が足りなかった、権利に不備があった等の場合に買主に対して売主が負担しなければならない損害賠償等の責任のことです。遺産分割にも同じようなルールが適用されます。例えば1000万円の価値があるものとして相続した不動産が実際には600万円の価値しか無かった。このままではこの不動産を相続した人が400万円の損をしてしまうので、400万円を各共同相続人がその相続分に応じて補償しなければなりません。

 

 

 

 

912条【遺産の分割によって受けた債権についての担保責任】

1項 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の

   資力を担保する。

2項 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

 

解説

債権はかならずしも満額回収できるとは限りません。そのような債権を相続した者がいる場合のルールです。

1項 債権が満額回収できなかった場合は、回収できなかった部分は各共同相続人がその相続分に応じて補償しなければなりません。

2項 遺産分割時にはまだ返済期日になってない債権や、停止条件付の債権についても、各共同相続人は1項と同様の責任を負います。

 

 

 

 

913条【資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担】

担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

 

解説

911条、912条は、損をした相続人に対して、各共同相続人がその相続分に応じて損害を補償しなければならないというルールでした。

しかし、各共同相続人の中に補償するだけの資力が無い人がいた場合、その補償しきれなかった部分は他の資力のある共同相続人が相続分に応じて分担します。

ただし、求償者に過失がある場合は、他の共同相続人に対して分担を請求できません。

この過失とは例えば、今すぐ求償できるのにいつもでも放置していたため、求償した時には共同相続人が資力を失っていたというケースです。

 

 

 

 

914条【遺言による担保責任の定め】

前三条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。

 

解説

被相続人が遺言で、911条、912条、913条のルールとは異なった相続人同士の補償の仕方を示していればそちらに従います。

 

 

 

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