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相続法解説(民法第5編) 第5章 財産分離

941条【相続差権者又は受遺者の請求による財産分離】

1項 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から3箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求す

   ることができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。

2項 家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、5日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対

   し、 財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合におい

   て、その期間は、2箇月を下ることができない。

3項 前項の規定による公告は、官報に掲載してする。

 

解説

財産分離とは、相続財産と、その相続人がそもそも所有している財産との混合を避けるため、相続開始後に相続債権者もしくは受遺者、又は相続人の債権者の請求によって、相続財産を分離して管理・清算する手続きのことで、相続債権者や受遺者、相続人の債権者の保護を目的とします。

例えば、被相続人には100万円の貯金と10万円の負債があり、その債権者Aがいたとします。その相続財産の相続人には1億円の負債があったとします。債権者Aからすると、10万円なら問題なく返済してもらえたはずなのに、相続が完了して1億10万円の負債になってしまうと返済してもらえる見込みが薄れてしまいますので、債権者Aは、あくまで相続財産に対する債権なのだから、相続財産の貯金100万円の中から優先的に10万円を返済して欲しいと思うでしょう。このような場合、財産分離によって債権を担保することができます。

 

1項 相続債権者や受遺者は、相続開始から3か月以内ならば、相続財産と相続人の固有の財産を分離すること(混同しないこと)を家庭裁判所に請求できます。3か月が過ぎている場合でも、まだ相続財産と相続人の固有の財産が混同されていなければ財産分離の請求ができます。

2項 家庭裁判所が財産分離を命じた場合、財産分離を請求した者は5日以内に、他の相続債権者や受遺者に対し、財産分離の命令があったこと、一定の期間内に配当加入の申出をすべきことを公告しなければなりません。この一定の期間は、2か月以上に設定する必要があります。

財産分離を請求した者以外にも、相続債権者や受遺者がいる場合、その者達も同様に弁済を受ける権利が有りますので、財産分離があったので、配当加入の申出をするように公告します。

3項 2項に定められている公告は、官報に掲載する方法で行う必要があります。

 

 

 

942条【財産分離の効力】

財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定により配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先だって弁済を受ける。

 

解説

財産分離の請求をした者や、財産分離の公告によって配当加入の申出をした者は、相続人の債権者(相続債権者)よりも優先して、相続財産から弁済を受けることができます。

 

 

 

943条【財産分離の請求後の相続財産の管理】

1項 財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。

2項 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

 

解説

1項 相続債権者から財産分離の請求があったにもかかわらず、相続人が相続財産と自己の財産とを別々に管理していないこと等によって相続債権者に不利益を与える恐れがあります。そのような事態を避けるため、家庭裁判所は相続財産の管理について必要な処分を命ずる裁量を与えられています。

2項 家庭裁判所が1項の規定によって選任された、相続財産の管理人は民法第27条から第29条に規定される「不在者財産管理人」と同様の権利義務を有します。

 

 

関連条文

27条【管理人の職務】

1項 前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。

2項 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。

3項 前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

 

28条【管理人の権限】

管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

 

29条【管理人の担保提供及び報酬】

1項 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。

2項 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

 

 

 

944条【財産分離の請求後の相続人による管理】

1項 相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続

   財産の管理をしなければならない。ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは、この限りでない。

2項 第645条から第647条まで並びに第650条第1項及び第2項の規定は、前項の場合について準用する。

 

解説

1項 相続人が単純承認した場合、通常であれば管理義務は無くなります。

しかし、単純承認した後であっても、財産分離の請求があったときは、相続財産を自分の財産と同様の注意をして管理する必要があります。

ただし、相続財産の管理人が選任されたときは、この管理人が管理しますので、相続人に注意義務はありません。

2項 1項の規定によって相続財産を管理する場合は、民法第645条から第647条まで、並びに第650条第1項及び第2項の規定が適用されます。

下記関連条文において、受任者→相続人、委任者→相続債権者、委任事務→相続財産の管理とすると理解しやすいと思います。

 

関連条文

645条【受任者による報告】

受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。

 

646条【受任者による受取物の引渡し等】

1項 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。

2項 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。

 

647条【受任者の金銭の消費についての責任】

受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 

650条【受任者による費用等の償還請求等】

1項 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。

2項 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。

 

 

 

945条【不動産についての財産分離の対抗要件】

財産分離は、不動産については、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

解説

相続財産中に不動産があった場合、「処分の制限」の登記をしなければ財産分離された不動産であることを第三者に対抗することができません。

 

 

 

946条【物上代位の規定の準用】

第304条の規定は、財産分離の場合について準用する。

 

解説

第304条に規定されている物上代位のルールを財産分離の場合にも適用します。

例えば、財産分離した建物を売却し、そこから相続債権者が優先的に弁済を受けようとしていたところ、その建物が火災で無くなってしまったとします。その場合、建物は無くなってしまい売却することは出来ませんが、火災保険で支払われる金銭を相続債権者が差し押さえそこから優先的に弁済を受けることができます。

 

関連条文

第304条【物上代位

1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。

2項 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

 

 

 

947条【相続債権者及び受遺者に対する弁済】

1項 相続人は、第941条第1項及び第2項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

2項 財産分離の請求があったときは、相続人は、第941条第2項の期間の満了後に、相続財産をもって、財産分離の請求又は配当加入の

   申出をした相続債権者及び受遺者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債

   権者の権利を害することはできない。

3項 第930条から第934条までの規定は、前項の場合について準用する。

 

解説

1項 相続人は、第941条第1項の財産分離の請求期間中と第2項の配当加入の申出期間が満了するまでは、相続債権者及び受遺者に対し   て弁済を拒むことができます。配当加入者が出そろったうえで平等に弁済するためです。

2項 配当加入の申出期間が満了したら、相続人は相続財産で相続債権者及び受遺者に対して、それぞれの債権額の割合に応じて、弁済をします。ただし、ただし、抵当権などの優先弁済を受ける権利を有する債権者の権利を害することはできませんので、相続財産の限度でまず全額の弁済をしなければなりません。

3項 930条【期限前の債務等の弁済】931条【受遺者に対する弁済】932条【弁済のための相続財産の換価】933条【相続債権者及び受遺者の換価手続への参加】934条【不当な弁済をした限定承認者の責任等】は、限定承認者の弁済についてのルールですが、財産分離の請求があった場合の相続人の弁済についても適用します。

 

 

 

948条【相続人の固有財産からの弁済】

財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては、相続人の債権者は、その者に先立って弁済を受けることができる。

 

解説

財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者が、相続財産の中からだけでは全部の弁済を受けられなかった場合、相続人の固有財産からも弁済を受けることができます。ただし相続人の固有財産については、相続債権者等より相続人の債権者が優先して弁済を受けることができます。相続財産に対しては相続債権者が優先して弁済を受けることができた分、相続人の固有の財産に対しては相続人の債権者が優先して弁済を受けることができるとしたルールです。

 

 

 

949条【財産分離の請求の防止等】

相続人は、その固有財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。ただし、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。

 

解説

相続人は、その固有財産をもって相続債権者や受遺者に弁済をし、又は担保を供することで、財産分離を回避することができます。そもそも相続債権者等は相続財産から優先的に弁済を受けられるよう財産分離を請求しますが、相続人の固有財産から弁済を受けれれるのであればもはや財産分離を請求する意味は無いからです。ただし、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して異議を述べたときは財産分離を回避することは出来ません。

 

 

 

950条【相続人の債権者の請求による財産分離】

1項 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対

   して財産分離の請求をすることができる。

2項 第304条第925条第927条から第934条まで、第943条から第945条まで及び第948条の規定は、前項の場合について準用する。

   ただし、第927条の公告及び催告は、財産分離の請求をした債権者がしなければならない。

 

解説

財産分離とは、相続財産と、その相続人がそもそも所有している財産との混合を避けるため、相続開始後に相続債権者もしくは受遺者、又は相続人の債権者の請求によって、相続財産を分離して管理・清算する手続きのことで、相続債権者や受遺者、相続人の債権者の保護を目的とします。

 

1項 相続人が限定承認をし、マイナスの相続財産を引き継いでしまった場合に相続人の固有の財産と混同し、相続人の財産状況が悪化しもともとの相続財産の債権者が弁済を受けられなくなってしまう可能性があります。そのような不利益を避けるために相続人の債権者は、相続財産と相続人の固有財産を分離することを家庭裁判所に請求することができます。

2項 相続人の債権者からの請求による財産分離に関しても、限定承認に関するルールや相続債権者又は受遺者の請求による財産分離に関するルールが適用されます。ただし、第927条の公告及び催告は、財産分離の請求をした債権者がしなければなりません。

 

 

 

相続法解説(民法第5編) 第6章 相続人の不存在(第951条~第959条)

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