相続法解説(民法第5編) 第6章 相続人の不存在
第951条【相続財産法人の成立】
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
解説
「相続人のあることが明らかでないとき」とは、戸籍の記載上相続人となるべき者が存在しない場合、戸籍上の相続人全員が相続欠格・廃除・相続放棄によって相続資格を喪失している場合です。
このようなときに、相続財産を管理するために財産自体を法人とします。そこから第952条以降の手続きへと順々に進んでいきます。
第952条【相続財産の管理人の選任】
1項 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2項 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
解説
1項 相続人のあることが明らかでないとき、家庭裁判所は、相続債権者、相続債務者などの利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければなりません。
2項 相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
第953条【不在者の財産の管理人に関する規定の準用】
第27条から第29条までの規定は、前条第1項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
解説
相続財産の管理人について第27条から第29条までのルールを適用します。
参考条文
第27条【管理人の職務】
1項 前2条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
2項 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
3項 前2項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。
第28条【管理人の権限】
管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。
第29条【管理人の担保提供及び報酬】
1項 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
2項 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。
第954条【相続財産の管理人の報告】
相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
解説
相続財産管理人の説明義務についての条文です。
第955条【相続財産法人の不成立】
相続人のあることが明らかになったときは、第951条の法人【相続財産法人】は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
解説
第951条のルールによって、相続人のあることが明らかでなかった為に相続財産が法人化されたものの、その後に相続人があることが明らかになった場合、そもそも相続財産法人は成立しなかったものとみなします。ただし、そのような場合でもすでに相続財産管理人が権限内でした行為は有効なものとします。
第956条【相続財産の管理人の代理権の消滅】
1項 相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2項 前項の場合には、相続財産の管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
解説
1項 相続財産管理人が選任されたの後に、相続人が存在することがわかり、その相続人が相続の承認をした時に相続財産管理人の代理権は消滅します。
2項 相続人が相続の承認をし、相続財産管理人が代理権を失った時は遅滞なく、相続財産管理人は管理財産についての管理計算をし、相続人に報告しなければなりません。
第957条【相続債権者及び受遺者に対する弁済】
1項 第952条第2項の公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、
すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合におい
て、その期間は、2箇月を下ることができない。
2項 第927条第2項から第4項まで及び第928条から第935条まで(第932条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
解説
1項 相続財産管理人選任の公告をした後、2か月以内に相続人が見つからなかった場合は、相続財産管理人は遅滞なく相続債権者や受遺者に対し、2か月以上の期間を設けて請求の申出をするように公告しなければなりません。
2項 相続財産管理人選任の公告をした後、2か月以内に相続人が見つからなかった場合、相続財産管理人は第927条第2項から第4項まで及び第928条から第935条まで(第932条ただし書を除く。)のルールを適用します。(限定承認者を相続財産管理人と置き換えて読むと理解しやすいと思います)
第958条【相続人の捜索の公告】
前条第1項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。
解説
相続財産の管理人を選任したときに公告をし、その後2か月以内に相続人が見つからなかった場合は、相続財産管理人は相続債権者や受遺者に対し、2か月以上の期間を設けて請求の申出をするように公告し、この期間中にも相続人の存在が判明しなかったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、さらに6か月以上の期間を設けて相続人があるならば名乗り出るように公告しなければなりません。本当に相続人はいないのかどうかを念には念を入れて捜査する為の最後の公告です。
第958条の2【権利を主張する者がない場合】
前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
解説
第958条の6か月以上の期間を設けてした最後の公告期間内にも名乗り出なかった相続人、相続債権者はその権利を失います。
これによって相続人がいないことが確定します。
第958条の3【特別縁故者に対する相続財産の分与】
1項 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者
その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えること
ができる。
2項 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。
解説
1項 相続人がいないことが確定した場合、家庭裁判所は被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求を受け、相当と認めるときはその請求者に対し、相続債権者への弁済をした後の相続財産の全部または一部を与えることができます。
2項 家庭裁判所への被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者からの請求は、第958条の公告の期間満了後3か月以内にしなくてはなりません。
第959条【残余財産の国庫への帰属】
前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。
解説
特別縁故者からの請求がなく、または請求があっても財産分与が一部で、残余財産がある場合は、それらは国庫に帰属します。
国庫帰属が決定したときは管理人は管理計算をしなければなりません。