相続法解説(民法第5編) 第7章 遺言 第1節 総則
第960条【遺言の方式】
遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
解説
有効な遺言は、民法に定められた方式に従わなければなりません。
遺言は遺言者が亡くなって効力が生じますので、効力が生じた後に遺言者に確認することが出来ません。よって、遺言者の意思を間違いなくくみ取れるよう、偽造変造がされないよう厳格にルールが設けられています。具体的なルールついては、第968条(自筆証書遺言)、第969条(公正証書遺言)、第970条(秘密証書遺言)に規定されています。
第961条【遺言能力】
15歳に達した者は、遺言をすることができる。
解説
15歳になれば保護者の同意がなくても有効な遺言を残すことが出来ます。
原則として未成年者が法律行為を行うには保護者など法定代理人の同意が必要ですが、その例外になります。
第962条【未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の遺言能力】
第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。
解説
遺言は本人の最終意思であり、他人の同意を必要としたり、他人に取り消されるということは馴染みません。したがって未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人が遺言をする場合であっても、法定代理人・成年後見人・保佐人・補助人の同意は必要とせず、また取消権の行使も無効とし、単独で有効な遺言をすることが出来ます。
関連条文
第5条【未成年者の法律行為】
1項 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2項 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3項 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
第9条【成年被後見人の法律行為】
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。
第13条【保佐人の同意を要する行為等】
1項 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2項 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3項 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4項 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
第17条【補助人の同意を要する旨の審判等】
1項 家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
2項 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3項 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
4項 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
第963条【遺言能力を要する時期】
遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
解説
遺言者は、遺言能力を有していなければ有効な遺言を作成することは出来ません。
遺言能力とは遺言の内容を理解し、その遺言の結果どのような効力が生じるのかがわかることです。
遺言をする時とは、法律行為としての遺言が成立する時のことで、その後に意思能力(遺言能力)を失ったとしても遺言の効力に影響はありません。
第964条【包括遺贈及び特定遺贈】
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
解説
遺言者は、包括(遺産の全部又は割合をもって)または、特定(遺産中の特定の財産を指定して)によって遺贈をすることが出来ます。
第965条【相続人に関する規定の準用】
解説
受遺者(遺贈を受ける人)には、第886条及び第891条のルールが適用されます。
母親のお腹の中の胎児でも遺贈を受けることができます、死産だった場合は無効になります。(第886条)
相続人の欠格事由に該当する者は、受遺者となることができません。(第891条)
第966条【被後見人の遺言の制限】
1項 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、
無効とする。
2項 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
解説
1項 第962条の通り被後見人の遺言は有効ですが判断能力が低下している為に、後見人に誘導されて後見人自身やその親族などの利益になるような遺言をしてしまう恐れがあります。そこで後見の計算の終了前に被後見人が後見人自身やその親族などの利益になるような遺言をした場合は無効とされます。
2項 1項のルールは、後見人が被後見人の直系血族、配偶者又は兄弟姉妹の場合は適用されません。