相続法解説(民法第5編) 第7章 遺言 第5節 遺言の撤回及び取消し
第1022条【遺言の撤回】
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
解説
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができます。遺言を撤回する為には遺言書を破棄する、新たな遺言により撤回するなどがあります。公正証書遺言の内容をを新たな自筆証書遺言で撤回することも、またその逆も可能です。
第1023条【前の遺言と後の遺言との抵触等】
1項 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2項 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
解説
1項 遺言書が2通以上あった場合に、先に書かれた遺言書と後に書かれた遺言書の内容に矛盾する部分があったときは、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなします。例えば先の遺言に「建物Aを長男に相続させる」と書かれていたのに後の遺言には「建物Aを次男に相続させる」と書かれていた場合は先の「建物Aを長男に相続させる」という遺言は撤回されたものとみなし、後の「建物Aを次男に相続させる」という遺言を有効とします。
2項 遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合についても、遺言者の生前処分その他の法律行為によって遺言の撤回をしたものとみなします。例えば遺言者が「建物Aを長男に相続させる」という遺言をした後に、遺言者が建物Aを売却してしまった場合は、「建物Aを長男に相続させる」という遺言を建物Aを売却したという行為によって撤回したものとみなされます。
第1024条【遺言書又は遺贈の目的物の破棄】
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
解説
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなします。本人の過失や第三者による破棄は遺言の撤回とはみなされません。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも遺言を撤回したものとみなします。
第1025条【撤回された遺言の効力】
前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が錯誤、詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
解説
第1022条,第1023条,第1024条に規定された方法によって遺言を撤回した後に、撤回したことを撤回したとしても、一度撤回された遺言の効力は回復しません。例えば先の遺言に「建物Aを長男に相続させる」と書かれていて、後の遺言には「建物Aを次男に相続させる」と書かれていた場合は先の「建物Aを長男に相続させる」という遺言は撤回されたものとみなし、後の「建物Aを次男に相続させる」という遺言を有効とします。さらにその後に「建物Aを次男に相続させる」という遺言を撤回したとしても、「建物Aを長男に相続させる」という遺言の効力は回復しません。ただし、錯誤、詐欺又は強迫によって遺言を撤回した場合に、錯誤、詐欺又は強迫の状態から脱した後に、遺言を撤回したことを撤回したときは、撤回した遺言の効力は回復します。
第1026条【遺言の撤回権の放棄の禁止】
遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
解説
第1022条に「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」と定められている通り遺言の撤回権がありますが、更に本条では撤回権の放棄の禁止を定めています。例えば「長男Aに全財産を相続させる」と遺言し、長男Aに「この遺言は絶対に撤回しない」との誓約書を書いていたとしても、その誓約書自体が無効とされ、いつでも遺言の撤回をすることができます。
第1027条【負担付遺贈に係る遺言の取消し】
負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
解説
負担付遺贈を受けた受遺者がその負担した義務を履行しない場合、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができます。それで履行をしないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家底裁判所に請求することができます。請求が認められ負担付遺贈が取り消された場合、受遺者が受けるべきであった権利は、相続人に帰属します。