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相続法解説(民法第5編) 第9章 遺留分

第1042条【遺留分の帰属及びその割合】

1項 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。

 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1

 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1

2項 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

 

解説

1項 遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障される遺産の取得分のことで、相続財産に次の一、もしくは二の割合を乗じて計算します(相対的遺留分)。

 直系尊属のみが相続人である場合 3分の1

 前号に掲げる場合以外の場合 2分の1

2項 相続人が数人いる場合には1項で計算した相対的遺留分に、各自の相続分を乗じて計算します(個別的遺留分)。例えば被相続人の相続財産が8,000万円で、相続人は妻(相続分1/2)と長男(相続分1/4)と次男(相続分1/4)だったとします。しかし被相続人は「全財産を愛人に遺贈する」と遺言を残していました。この場合1項の二が該当しますので、8,000万円に2分の1を乗じた4,000万円が相対的遺留分となります。そこに相続分を乗じた、妻2,000万円、長男と次男各々1,000万円が(個別的)遺留分となります。

 

参考▶遺留分とは?

 

 

 

第1043条【遺留分を算定するための財産の価額】

1項 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額

   から債務の全額を控除した額とする。

2項 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

 

解説

1項 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に贈与した財産の価額を足し、そこから債務の全額を引いた額とすします。

2項 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定めます。

 

 

 

第1044条

1項 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加える

   ことを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2項 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3項 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価

   額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 

解説

1項 第1043条第1項の、遺留分を算定するための財産の価額を計算する際の贈与した財産の価額には、相続開始前の1年間にしたものに限り算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても算入する。

2項 贈与した財産の価額を算出するときのルールです。贈与を受けた人の行為によってその贈与された物の価値が無くなってしまったり、価値が増減した場合でもあくまで贈与を受けた時点での価値をもとに算出します。

3項 相続人に対する贈与の場合は、遺留分を算定するための財産の価額を計算する際の贈与した財産の価額には、相続開始前の10年間にした婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本としての贈与に限り算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、10年前の日より前にしたものについても算入する。

 

 

 

第1045条

1項 負担付贈与がされた場合における第1043条第1項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額

   とする。

2項 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担

   の価額とする負担付贈与とみなす。

 

解説

1項 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。この場合の贈与した財産が負担付贈与だったとき、贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を差し引いた額とします。

2項 不相当な対価をもってした有償行為とは、例えば、評価額3,000万円の土地を100万円で売り渡したような場合です。このとき、土地の売買をした双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなします。具体的にこの例でいうと、3,000万円(目的の価額)-100万円(負担の価額)=2,900万円(贈与した財産の価額)となります。

 

 

 

第1046条【遺留分侵害額の請求】

1項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下こ

   の章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2項 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算

   定する。

 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第1項に規定する贈与の価額

 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺

  留分権利者承継債務」という。)の額

 

解説

1項 遺留分を侵害された者やその承継人は、受遺者や受贈者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。

2項 遺留分侵害額を算出するためのルールになります。まず第1042条の規定に従って(個別的)遺留分を算出します。そこから特別受益額を差し引きます()。次に遺産分割によって取得した額を差し引きます()。最後に遺留分権利者が承継する債務の額を加算します()。この方法で算出された額が遺留分侵害額になります。

 

 

 

第1047条【受遺者又は受贈者の負担額】

1項 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第1042条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。

 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。

 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

2項 第904条第1043条第2項及び第1045条の規定は、前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。

3項 前条第一項の請求を受けた受遺者又は受贈者は、遺留分権利者承継債務について弁済その他の債務を消滅させる行為をしたときは、消滅した債務の額の限度において、遺留分権利者に対する意思表示によって第一項の規定により負担する債務を消滅させることができる。この場合において、当該行為によって遺留分権利者に対して取得した求償権は、消滅した当該債務の額の限度において消滅する。

4項 受遺者又は受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

5項 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる。

 

解説

遺留分侵害請求を受けた側に関するルールです。

1項 受遺者、受贈者はそれぞれ遺贈を受けた額、贈与を受けた額を限度として遺留分侵害額を負担します。

 受遺者も受贈者もいる場合、まず受遺者が遺留分侵害額を負担します。受遺者の限度まで負担してもなお遺留分侵害額に満たないときは受贈者が負担します。

 受遺者が複数人いる場合や、同時に贈与を受けた受贈者が複数人いる場合は、遺贈、贈与の目的の価額の割合に応じて各々が負担します。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従います。

 贈与を受けた者が複数いる場合で、各々の贈与を受けた時期が異なるときは、最後に贈与を受けた受贈者から遺留分侵害額を負担し、受贈者の限度まで負担してもなお遺留分侵害額に満たないときは、最後から二番目に贈与を受けた者が遺留分侵害額を負担し、、と、より後に贈与を受けた者から順々に負担していきます。

2項 第1項での遺贈を受けた額、贈与を受けた額については第904条第1043条第2項及び第1045条の規定を準用します。

贈与を受けた人の行為によってその贈与された物の価値が無くなってしまったり、価値が増減した場合でもあくまで贈与を受けた時点での価値をもとに算出します。(第904条

条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定めます。(第1043条第2項)

遺贈・贈与した財産が負担付遺贈・贈与だったとき、遺贈・贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を差し引いた額とします。(第1045条第1項)

不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなします。(第1045条第2項)

3項 遺留分侵害額請求を受けた受遺者・受贈者が遺留分権利者が承継した相続債務を弁済した場合、弁済した債務の額を限度として遺留分侵害額請求に対する債務を消滅させることができます。また、その債務の消滅と引き換えに遺留分権利者への求償権も消滅します。

4項 第1項で遺留分侵害額請求を受けた場合の負担の限度、順番が規定されいます。遺留分権利者はまず順番1番の者に対して負担の限度までの遺留分侵害額請求をします。そこで順番1番の者が無資力によって限度までの負担をできなかったとき、不足分は遺留分権利者の負担となります。その不足分を順番2番の者へ請求することはできません。

5項 裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、遺留分侵害額請求より負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができます。

 

 

 

第1048条【遺留分侵害額請求権の期間の制限】

遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

 

解説

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅します。相続開始の時から十年を経過したときも、時効によって消滅します。

 

 

 

第1049条【遺留分の放棄】

1項 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

2項 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

 

解説

1項 相続開始後の遺留分の放棄は個人が自由にできますが、相続開始前に遺留分を放棄する場合は家庭裁判所の許可が必要です。脅迫などによって無理やり遺留分の放棄をさせられるような事態を防止するためです。

2項 共同相続人の一人が遺留分を放棄したからといって他の各共同相続人の遺留分が減ったり増えたりすることはなく、何の影響もありません。

 

 

 

相続法解説(民法第5編) 第10章 特別の寄与(第1050条)

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